2019年12月31日火曜日

わたしが知らない音楽本は、きっとあなたが読んでいる 2019

また更新が空いてしまったため、ここ2年(2018-2019)に読んで特に印象に残った本(主に音楽関係)を、まとめて紹介してみようと思う。できる限り、この間に新刊または改訂版などで出版されたものから選びたい。(このタイトルは、僕の大好きな書評ブログのオマージュです)



Inside Arabic Music
2019/8/15


しばらく自分の興味が続いていて、できれば自分のライフワークとしていきたいトピックの1つが、「西洋の旋法体系から生まれるメロディやフレーズ」というものだ。今現在世界に広まってしまったごく一般的な「和声」という要素が生まれる前、そしてそれを取り去ってしまったものを考えてみる。ルネッサンス〜印象派までを大ざっぱに除くと、1つは現代音楽であり、もう一つはそれら以前の音楽となる。中世のいわゆる教会旋法とよばれるものに焦点を絞ると、お互いに同一の祖先を保ち相互に影響を与え合ったアラブ音楽が見えてくる。そしてその2つはギリシャとローマから生まれた。

大まかに、中世ヨーロッパ、アラブ、ギリシャローマとその3つを焦点に、資料を読み込んだり考えたり演奏したり曲を作ったりとしていることが多いこの頃なのですが、当然のごとく日本語で得られる情報が少ない分野ではあります。とくにアラブに関しては、日本の文化からはかなり遠いところにありなじみ深いとは言えないでしょう。

アラブ音楽の情報を体系的に得ようと思った時に最も問題になることが、アラブと呼ばれる地域が非常に広いということ。そして今の西洋音楽と比べれば情報伝達の発展とともに画一化した部分がまだ少ない。特に古典音楽は。そしてアラブ地域だけでも広大なエリアがある上に、イスラムの影響を受けた地域はさらに広い。トルコとイランは当然のごとく、スペインや遠い関係ではあるけれどインドにも色濃く影響が残っています。そして過去のある時点では、それらの国境線や住む民族も入り混じり、より複雑なのはご存じのとおりです。

ある資料ではある地域の音楽の情報を得ることができても、なかなか全体像を見るのは難しい。日本語で書かれた書籍も、ほぼある地域に限定して書かれたものでした。共通点はあるのですが、やはり地域が膨大すぎて全体像は見えにくいと思います。僕が最初に欲しかったのは、大まかに全体を通して中世ヨーロッパ、ギリシャローマと対比させられる強度のある情報でした。ですので最初にこのInside Arabic Musicを発見した時に思ったことは、最初にこれから読み始めたかったということ。というより自分が良い本に出会った時の感想は、ほぼこれです。

残念ながらこの本は英語で書かれていて、多分日本語版は望めないでしょう。しかし、まず体系的に全体を知るための入門書そして辞典として、今までになかった素晴らしい本です。

そして情報を得るための2つ目の困難さは言語です。アラビア語、トルコ語、ペルシャ語、どの言語にしてもかなり敷居が高いです。僕にとっては。翻訳情報としては英語、次いでフランス語が多かったです。ですのでこの2つに加えて日本語が今のところ自分の情報源です。もしかしたらアラビア語でこの本以上にまとまっているものがあるのかもしれませんが、このInside Arabic Musicは西洋音楽の影響も含んだアメリカで生まれた本という意味もあり、文化を対比させつつ影響を考えたい自分にとっては意味がありました。ここ数年でのベストの一冊。



アラブ古典音楽の旋法体系
2017/2/22


日本語で出版されていて日本人の書いた書籍、という中で最も強い印象をもちました。当然のことながらまず日本語の本からリサーチしてみるのですが、やはり数は多くはないです。この本は特に旋法に特化されていますし、自分の知りたい情報と合致しました。そして非常に分かりやすいです。さらに入門用としては同じ著者の2018年出版、「アラブ音楽入門 〜アザーンから即興演奏まで」をお薦めします。サイトある音源で確認もできますし、まずはこの本から入ってみるのはいかがでしょう。

副題に「アレッポの歌謡の伝統に基づく旋法名称の記号論的解釈」とあるように、著者はシリアのアレッポで学びその地方のアラブ音楽について書いています。前項では体系的なものをまず知りたいと書きましたが、実際その音楽を研究したり演奏したりするようになるとまた別です。どんな音楽でもそうですが、まずはある一つのものに集中して学ぶ以外ありません。そういう意味では、今は戦火によって散りぢりに離れてしまうことを余儀なくされたこの地域の音楽に出会えることに感謝しかありません。



ミクロログス
2018/6/7


グイド・ダレッツォは一般的にはそこまで有名ではないかもしれませんが、西洋音楽史の中で重要な人です。修道士でグレゴリオ聖歌を教えていた人で、簡単にいうと聖歌を教える中で階名を作って用いたということです。彼が最初という確証はないのですが、この時代からドレミが用いられるようになりました。この書籍にはミクロログスだけではなくその他の文書も載せられており、非常に優れた解説も含みます。階名について、そして五線についてその由来、そして彼が用いた教会旋法についての解説もある。これは教会旋法の入門解説としてもとても良く出来ていて、勧められる部分です。この書籍の日本語版が優れた解説とともに出版される機会があったというのも、ありがたいことです。

グレゴリオ聖歌そして教会旋法が用いられた時代というのもかなり長く(少なくともバロック、古典、など区切られた時期よりは遥かに)その中でグイドが活動した時期について非常にイメージしやすく俯瞰して考えることができたのは、この日本語書籍のすばらしいところでしょう。



和声論
2018/8/25


音楽理論を学ぶものなら誰しも、ラモーや和声論に言及する文章を何度も読んでいるはずです。こちらも西洋音楽史上で重要なものなのです。そして今まで完訳が出ていなかったので、ようやく日本語で読むことができます。

この本を含みラモーの業績は数多くあります。その中で現代の音楽理論で言及される部分とは、「ある和音とその転回形というように、それらは同じ和音であるという概念を発案した」という点です。彼より前の時代は、「転回形も別のモノだ」という風に考えていたことが重要です。今は転回形という概念が当たり前のように学ばれ身についているため、どの音がルートだということもすぐにわかります。

もっとシンプルに分かりやすく例を出すと、ドミソとドファラという和音がある時に今の人はドファラのルートはファだしファラドの転回形だとすぐ分かります。二つともドがルートになってる和音だとは考えません。逆にシレソとソシレの和音がある時に、それ以前の人は一番下にある音がシとソで異なるので二つは異なるものだと認識していたという事です。

この概念が当たり前にならなければ、その後の音楽そして和声はあり得ません。ですので非常に重要で、後の音楽書でも度々言及されます。

せっかく日本語で読めるので、上記の事柄も含めて著者がどういうふうに説明し例題を出しているのかというのを読み込んでいくのはとても刺激があります。ある程度難解で膨大な書籍ですが、音楽理論を語る上では避けて通れない最も重要なものの1つとも言っていいこちらは、お薦めの一冊なのです。

そしてこのラモーという人物像そして当時の音楽の中での立ち位置が大切。ブフォン論争そしてその相手ルソーを知ることでラモーと和声論が見えてきます。ブフォン論争については2018年出版「ラモー 芸術家にして哲学者」、ルソーの音楽面については、白水社のルソー全集の12巻が、特に興味深く参考になります。



音楽言語の技法
2018/1/26


またまたこの本も西洋音楽史上で重要な本です。そして「わが音楽語法」と訳された日本語版は長らく絶版で、ようやくの新訳版でした。メシアンの個人的な作曲の技法の本ではありますが、この人の影響力は計り知れないものがありますし、後世に与えた影響についてもそうでしょう。そしてメシアンの技法は、ジャズをはじめとしたポピュラー音楽にも絶大な影響を与えました。特に影響が大きく有名なものには、「不可逆リズム」そして「移高が限られた旋法」があります。

シンメトリカルな不可逆リズムはBen MonderやMiles Okazakiなどのジャズミュージシャンには欠かせませんし、そういった音楽はDjentやフランク・ザッパなどの複雑なリズム志向とも相互に影響を与え合っています。

移高が限られた旋法は日本では最初の翻訳版で移調の〜と書かれてそれが定着していますが、新訳の通り移高が正確です。他にもmodulationを転調から転旋としているように、用語がより正確になっているのもこの版の特徴です。移高が限られた旋法はジャズでもすでに一般的になっていて、そのホールトーンとディミニッシュ以外のMTL3以降の旋法も試され始めています。

ジャズでは単音のフレーズ単位で用いられることが多いですが、メシアンの作曲そしてこの本の解説では当然それ以外にも重ねて重音和音として動かすやり方もあり、それらは旋法のリストを参照するだけではなくこの本を読む意味がある点だとおもいます。ということでジャズミュージシャンやジャズを学ぶ生徒におすすめしやすくなった日本語版です。

原書はフランス語で書かれており、当然のごとく英語には翻訳され何時でも手に入れることができました。なかなか日本語版は入手できなかったので、僕も英語版で学びました。しかし日本語で読むと景色も違うし理解もしやすいです。今回紹介している本は翻訳本が多いですが、日本語に訳す需要があり買い手がいるというのは幸せです。



やさしい現代音楽の作曲法
2018/4/24


「現代音楽」といってもそれは印象派以降から今の時点まで非常に長い区分です。そして多くの事が試され細分化されています。ですのでこういった入門者用の網羅されていて俯瞰できるものは、非常に大好きです。どの項もとてもセンス良くまとめられていて、読みやすい上に学びやすと思います。

僕は調を拡張して印象派あたりか外れ始めたあたりから先の音楽を学びたい生徒には、まずこちらをおすすめするようになりました。シェーンベルクの辺りをやりたいと言ってきた生徒にも。12音をやりたいのかもしれないし、その先のトータルセリーかもしれないし、全然別のものかもしれないし、まずいちばん興味を持てるものが見つかりそうなのがいいです。そしてこれを一冊よむことで歴史の流れを俯瞰して見ることができます。

さらに付録としてOpen Musicの基礎が収録されいます。こちらもそれ専門の書籍とくらべても載っていない情報もありますし貴重です。僕もOpen MusicとPdは欠かせないので助かります。



ジョン・ケージ 作曲家の告白
2019/7/30


現代音楽の中でもジョン・ケージは知っていて、4分33秒も知ってはいても、それ以外については意外と一般的には知られていないように思います。(前項のやさしい現代音楽の作曲法は、彼の作曲についても詳しく書かれています。)

表題ともう一つの講演が記録されていて、彼の生い立ちや作曲についての考え方、構想が分かります。僕も現代音楽を好みながらも、なかなかケージについては触れる機会がありませんでした。今まで邦訳されていない内容ですので初めて知る内容も多く、これから彼の音楽に接する機会が増えそうです。



権力と音楽
2019/7/1


第二次世界大戦前後のドイツの音楽について。アメリカ占領軍の方針だけではなくそれに対比させたソビエトのやり方、そして戦前のナチスの音楽や音楽家との関わり方まで。はっきり言ってしまうと全く知らないことばかりでした。ワーグナーがナチス絡みで避けられるというくらいだけの前知識でしたので、すべてが新しく読むことが出来ました。

空爆を避けての楽器と楽譜の避難、その接収、アメリカとソビエトの差などもびっくりしましたが、必要とされるくらい占領後もすぐにオケが活動していたことにも驚かされます。そして空爆中も演奏会はあったということだし。

戦後の音楽家の処遇は入党していた人はもちろんとして様々に判断されますが、演奏曲に関してはそこまで作曲家で厳密にはなっていなかったのも意外でした。すぐに楽譜も手に入らないし。ドイツ!っていう作曲家を全部避けたら演奏する曲が無いですから。

当時生きていた作曲家についての記述も知らないことばかりでした。リヒャルト・シュトラウスの晩年になりますし、まだまだ作品は作っていました。そしてトーマス・マンとの関係も。

ベルリン・フィルの団員は戦時中兵役が免除されていたことが、一番印象に残りました。

丹念に新しく調べられた事柄が載せられています。驚くべきがこれは訳書ではなく日本人の手によるものだということ。僕は特に数年後同じく占領政策を受けた日本を考えてしまう。ドイツはクラシックの伝統があった。アメリカはそれに劣等感もあり新しいアメリカの音楽も伝道するような意思もあった。ソビエトはもともとドイツとは音楽家の交流が多く音楽では近い位置にある。それとは全く違う立場の日本の占領政策はどうだったのだろうか。

さらには、わずかに言及されていたがウィーンフィルの状況、ベルリンとの比較がもっと知りたくなった。あとはイタリアでは?



成功する音楽家の新習慣
2018/9/22


こちらもまたまた待望の日本語版です。すべての楽器を演奏する人と指導者の良きガイドブックとなるでしょう。詳しくはリンク先を見てもらうとわかると思いますが、練習について、本番について、振る舞い方、計画、ボディケアなどなどさまざま必要で参考になることが書かれています。

2009年に刊行に発行された本の日本語版となりますので、昔からあるこの手の本とは違い、多くの新しい知見が加えられているのも見どころです。ボディケアにしても医学やアレクサンダーテクニークの最新状況をふまえていたり、録音器具を使った自らの振り返り方など、今の演奏家に合ったやり方です。

この本と連動するサイトも非常に良く出来ていて、日本語版もかなり充実しています。特に診療に対応している医師、病院のリストは助かる人も多いはず。できればさらに充実している英語サイトもチェックしてみましょう。
MusiciansWay.com

僕自身にとって非常に参考になり日々チェックすべき点が多いですが、さらにこうして自分の生徒に勧めることができる書籍が増えてきたのもここ数年の特徴です。



エフォートレス・マスタリー
2019/11/17


ケニー・ワーナーというピアニスト自体、僕が長年注目してきたジャズミュージシャンであるだけでなく、こちらの著書は当時非常に話題になりました。いわゆる音符や音楽理論が満載の「教本」というものではないので、翻訳して読むのもある程度手間がかかり、日本でもジャズミュージシャンの間で読書会があっという話を聞きました。

という訳で、この本は特に日本語版を待ち焦がれていた人が多かったです。SNSで紹介した際も反応が大きかったです。上記の通り「教本」ではないのであらゆるレベルの人の参考になると思いますし、気楽に読み始められると思います。

僕は英語版で読んでそのままにしていた感じで今回の日本語版が出て気がついたのですが、2014年、バークリー音楽大学のエフォートレス・マスタリー研究所芸術監督に就任とありました。そんなのができたのかという意外性とともに、たしかにこういった感じってあの大学に合うのかなという感想です。ハルクルックやジョンダミアンの教え方にも近い所があります。



ジャズの「ノリ」を科学する
2019/11/25


こういった内容の本って今まで主観的で全く意味を成していない低レベルのものが多かったため、そこまで期待していなかったのもありますが、ちゃんとしています!日本人が書いて日本でこういう本が出されるというというのも、素晴らしいです。

よくある軽い本とは別に「ちゃんとした」先行研究は多い分野で、例えばこの書籍の参考文献にも載せられている「Swing Ratios and Ensemble Timing in Jazz Performance」はウェブで容易に読めるため、非常によく知られています。こういった数々の研究を踏まえた上で、独自のサンプルを選び個人的な新たな視点で分析する可能性はこれからも膨大です。その中の1つとして、日本語で読める非常に優れた内容だと思いました。

そして科学の発展とともに今のハードウェアの性能があれば、こうした分析に必要な機材のハードルは無いと言っていいくらい低くなりました。実は僕の知る限りかなりの一流ジャズミュージシャンは、こうした分析に手をだしています。言わないだけで。必要なのは強い好奇心とやる気と根気だけです。分析にはそれなりの手法が必要になりますが、その視点というは当然音楽家のレベルによって変化します。ということは、上手くなればまた新たな視点で分析し新しい発見ができるという、無限の可能性が存在します。

音源を時間軸で分析するために、昔はIRCAMや日本だとNHK放送技術研究所のような特別な施設でしか扱えないような機材が必要でした。1980年代にシンクラヴィア等デジタルオーディオを扱う機材がミュージシャンの手に渡り始めました。上記の通りこの研究はミュージシャンとしての視点が必須です。そしてそれをシンクラヴィアを手に入れることが出来るトップミュージシャンがもし試みたとしたら。

パット・メセニーというギターリストがいます。シンクラヴィアを使いこなした数少ない音楽家の1人ですが、ギターシンセにつないで使ったイメージしかない人がほとんどでしょう。しかしシンクラヴィアの重要な機能の1つがデジタルでの波形サンプリングやFMでの再構成です。そして彼のレッスンやセミナーを受けたことがある人、時には出回るブートのプライベートレッスンの音源などで分かる通り、アーティキュレーションやハネ方などのリズムに関する事を一番に重要視している人です。直接ことのことを訊けたわけではないのですが、間違いなくこういう追求にシンクラヴィアを利用していたはずです。

今の時代はPCどころかスマートフォンでもシンクラヴィア以上のことが簡単に短時間でできてしまいます。パット・メセニーなど非常に高価な(当時シンクラヴィアは億超え)機材を買い使いこなせる、そしてリズムに関して独自の視点をもつ音楽家でなくとも、大丈夫です。ジャズを演奏する上でこうしたリズムは、聴いて体感して身につけることしかありません。しかしこうした研究はさらに自らのレベルを上げるために役立ちます。そして、この本はその最良の指針の1つとなるはずです。



チャーリー・パーカー:ビバップ語法の習得と発展
2019/3/31


血なまぐさい論争に巻き込まれたくないので詳細は書きませんが、某ベーシストの書いたパーカー本そしてその周辺にいる某サクスフォン奏者に対する、著者の反論です。出典そしてリサーチは非常に綿密に出来ていますし、2つのパーカー本のrelativeに関する主張で僕の知見の範囲内では、パーカー本人の考えに近いのはこちらではないかと今のところ思います。

パーカー周辺のリサーチと共に彼のビバップそしてその後の音楽についての発展のさせ方と教育法についても、僕の考え方と多くの共通点がありましたし納得する部分が多かったです。

それだけに、ほぼ直接の反論の部分が「音楽書」として本当に必要だったかという点が非常に惜しいです。そういう部分をすべて削ったとしてもこの著書の強度は非常に高く高いレベルでのアンサーとなりえているからです。この著者だけでなく論争相手についても同じことが言えます。そういう承認欲求の呪縛に囚われた部分というのが、このジャンルの特に日本人の書いた著書のレベルを下げています。承認欲求の必要性から書かれた部分は、多くの読者には必要ないですし、そうした部分がなくてもちゃんと評価出来る読み手のためのジャンルであり書籍や論文のはず。

それはそれとして、続編のマイルス・デイビス自伝検証を含めて信じがたいことにkindle unlimitedで読むことができる良書であることには違いありません。加入されている方には特にお薦めします。マイルス・デイビス自伝検証では著者が新たにクレームを入れた相手としてMiles Okazaki氏が出てきます。その辺りの経緯も必読かも。(上記で言ってることは真反対ではありますが…)



秋吉敏子と渡辺貞夫
2019/3/31


日本人として最初に入学された、母校の大先輩2人のドキュメントです。僕もJazz Compositionを学んでいたので龝吉敏子女史のビッグバンドの音楽や渡辺貞夫氏のジャズスタディについては非常に馴染み深いのですが、それ以上は知る機会はなかったかもしれません。2人のそれぞれの人生とその関係性などを中心に書かれていますが、恐れ多くも自分を重ね合わせたりして、楽しく読めました。

特にどういう経緯で留学して、留学中は何を学んで、それからどうしたのかということはあまり知られていないことだと思います。母校の方針が昔から通して変わっていないのが驚きました。女性奏者の学生を宣伝的に使う戦略というのがずっと一貫していて、龝吉女史もちゃんと認識していてその上で後進の留学のサポートをする。あの学校のビジネス面の変わらないえげつなさと、いつも伝え聞く龝吉女史の後輩たちへの温かい部分が対照的です。



こうして管楽器はつくられる
2019/7/22


一応自分はマルチ・インストゥルメンタリストだと勝手に思っているのですが、やはり管弦打のなかでは管が一番縁遠いと思います。もしくは専門の管楽器奏者から見ても、管楽器の物理現象は他の楽器より直感的ではないはずです。弦楽器ほど単純化して考えられない。そして伝統的にどうしてこうなっているのか物理的にちゃんと理論化出来てない上で発展してきた部分も非常に多い管楽器。ヤマハの設計者が解説する管楽器の仕組みや製作方法は、管楽器奏者を始めとした全ての音楽家必読の書です。

惜しくも連載中に亡くなられた著者のコラムをまとめたものとともに、最終章には新しい管楽器Venovaの開発物語が付け加えられています。Venovaは今年ちょうどAltoも出たことですし、試してみたくなりました。(個人的にはRolandのAerophoneより好みかもしれません。)

管楽器の物理に関しては日本人のとても優れた研究があります。安藤由典氏は日本で楽器の音響の研究の偉大な先人ですが、特にフルートを始めとした独自の管楽器の研究が評価されています。ですのでともに「楽器の音響学」「楽器の音色を探る」を読み進めると理解が深まります。



The Bible of Classical Guitar Technique
2016/4/1


いわゆるクラシックギターの「教本」です。アメリカの本なので日本に伝わってくる海外のものがヨーロッパということが多いクラシックギター界隈では、僕はなかなか出会うことがありませんでした。アメリカの人にお薦めされたこちらは、すぐに採用となり、自分の練習やレッスンでも取り入れています。

「教本」はその時代時代の伝統的で重要なものがあり、まずはそちらに当たることがお薦めです。新しいものでもある部分や条件に特化した優れたものはいくつも存在します。この本はそれらを全て含めて可能な限りの優れたやり方を網羅している練習を記載しています。ですのでさまざまな教本を経た後の優れたリファレンスとして、そしてよい指導者が用いる決定版として、今までに見つけることができなかった「教本」です。

例えば、アルペジオの基礎練のパターンとかやっていく時に例のジュリアーニとかアグアドとかを出して、その後実際のいろんな曲から抜き出したりなど、自分の練習パターンを作っていくことがあるかと思います。そういうのは大体載ってました。自分がまとめようと思ったものは大体書いてある本です。大体はかゆいところに手が届かないので、自分で作るわけですが、それが全部載ってるというのは凄いことだと思いますし、自分とは相性がよかったのだと思います。



バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(全6曲)
2018/4/23


1990年に初版が出ていて、2018年に新訂版が出ました。バッハという普遍的なものは、例えば「展覧会の絵」のような氏の圧倒的な音楽性と技能を持って作り上げられる唯一の編曲とは異なり、僕のようなレベルからでもゆっくりの氏の音楽の一部を学んでいけるのではと思っています。

バッハの作品の中でも僕は無伴奏ヴァイオリンが好みで、いろんなやり方で演奏し触れています。例えばクラシックギター以外のエレクトリックギターで楽しむのであれば、まずは各ヴァイオリン版をチェックしてそこから弾いていくのが良いと思います。クラシックギターでもヴァイオリン版は当然必要ですが、ギター編曲の様々なものに手を付けていくのが主になるでしょう。どちらにしてもこの山下氏の版はその先で氏の音楽性を学ぶものだと思います。少しずつ弾き比べることで、いつも新たなエッセンスをもらっています。



音楽教育研究ハンドブック
2019/9/20


学会設立50周年を記念した記念企画だそうですが、こういった各種短い研究発表をまとめて読むことができるものって今までなかったのでしょうか? 毎年あったとしたら、ジャーナルをいつも読んでいない一般の人にも触れられるので良いと思いました。

これだけのトピックがあれば、音楽教育に関わる人であれば何らか自分の関心がある話題を発見できると思います。コンパクトで優れた解説でまとめられていますし、その先を知りたい場合の参考文献も各ページしっかりしています。ぜひ見つけてみてください。



ツムラコレクション
1988/2/1


一度あるジャズバーで見せていただいて以来、ずっと気になっていた図鑑。高額でやり取りされていますが、今回格安で譲っていただくことができました。本当に各ページをめくりながら写真を楽しむ「図鑑」です。

漢方薬品メーカで非常に有名な株式会社ツムラの当時の社長で創業者一族の津村昭氏は、バンジョープレーヤであり世界的なバンジョーとギターのコレクターでした。そしてバンジョーとギターの2冊のコレクションブックを出しました。

1997年のツムラ事件で社長を退いたあとは、特にギターコレクションはバラバラになったと聞きました。いまはそこにはないトンデモないアーチトップ達を時々目で楽しんでいます。



身体の聲
2019/3/22


世界中の異なる風土と文化、そこに生きる人の身体性、そしてそこから生まれる感性、思想、哲学の違い。

すべては脳から生まれていると思うかもしれませんが、全てはその人の身体性の中からしか出てこないものです。なので、単なる受け売りの主張はすぐに分かってしまう。そして身体性というのはその人が暮らしているその土地、そして生きていた時代からできている。

これに真っ先に気が付くことができるのが、他人との関わりそして生死のやりとりを行う武術家だった。そしてこの岡山に住む稀有の武術家が自らの身体性を通して伝える話は圧巻。多くの武術家の著書を読んできましたが、この本は圧倒的。それが著者の体験してきたさまざまな国や地域を通して磨いてきた身体性から生まれるものなのでしょう。

そして人が行い考えることの全てが身体性から生じるのであれば、全ての人に関係すること。そして音楽家という表現者にとっても非常に重要だと思っています。なので、武術家特に古の達人の残した話からは目が離せないのです。



改訂新版 新書アフリカ史
2018/11/14


世界各地の文化や風土を知ることは非常に面白い。そしてその上に存在する音楽ももちろん。

アフリカ大陸について、まず参照にするのは新書アフリカ史だった。入門書としては決定版だと思う。これは自分の愛読書として手放せないもの。しかし非常に移り変わりが早い地域でもある。20年ぶりに改訂され加筆修正された本書も興味が尽きない。これからも、何かこの地域の音楽だったり何かに触れる際の最初のガイドブックになるはず。



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