2018年1月17日水曜日

わたしが知らない音楽本は、きっとあなたが読んでいる

このブログはしばらく更新していなかったので「昨年一年間」と限定するわけではないけれども、最近読んでとても印象に残った本(特に音楽関係)について書いてみようと思う。(今回のタイトルは、僕の大好きな書評ブログのオマージュです)




近代科学の形成と音楽


ここ数年いや多分数十年で最も手応えのあった本の1つ。高校生だった自分に教えたい本、ナンバーワンです。当時悩んでいた疑問のヒントが、ほとんどこれに載っていた。当時こういうヒントがあったら、自分の進路も変わってたかもしれないなと、すごく思わせてくれる本でした。本当に当時知りたかったことの取っ掛かりは見つかりました。

特にオイラーの章の内容は、とても稚拙だけれども当時自分がやろうとしていたやり方と全く方向性が同じで驚きました。ラモーじゃなくてこっちに目をつけるべきだったんだなぁと。こっちのほうが完全に自分の肌に合ってる。下方倍音列の話とかもオイラーの方の論文読みたくなる。

歴史上の偉大な科学者が、実はこぞって音楽の研究をしていたというのが素晴らしいです。全ての音楽家にオススメします。

原書はMIT Pressの出版で、サイトで譜例と音源が掲載されています。すばらしい。
https://mitpress.mit.edu/music-science



ギターと出会った日本人たち


だいたい戦前までの日本でのギター史。体感的にそんなに前の時代ではないような気がする。僕の祖父はヴァイオリニストだけど、ここに載ってる人と近い世代だし。もともとセゴヴィア前の音楽は受容していないと言っていいような微々たる影響なので、それらの文化が日本に残ってないし根付いてないのも仕方ないのかなと思う。でもここ数十年の古楽の研究再発見は著しいし広まってほしいなぁと思う。

これを読むと、日本の文化、音楽の中でのギターの立ち位置が見えてくる。しかし西洋音楽でヨーロッパでのギターの立ち位置自体がとても難しいし、そちらもしっかり学ばないと見えてこない。

ここに載ってないことで疑問に思ったことは、ガット弦(当時は)を張った楽器でクラシックを弾く以外のギターは日本に入っていなかったのだろうか?ということ。その影響の大小も。ウクレレはすでに流行っていて米国でマーティンが製造していたし、日本にもウクレレは入ってきている。鉄弦アコースティックギターはどうだったのだろう。



リー・コニッツ ジャズ・インプロヴァイザーの軌跡


ここ何年かでもジャズメンの伝記はいくつか読んだかなと思う。ブラウニーチェットハービーとか。どれも最高です。このリーコニッツの本は伝記というより、インタビュー形式の本。しかし即興演奏について考えるには特に大事な一冊となりました。時々出してきて、再びちょっとずつ摘み読みしています。

昨年出た本ではゲイリーの本もオススメ。遅くなっていますが僕も最近読み始めています。



音楽テイストの大転換


一般的に「クラシック」と呼ばれる音楽が作られた時代の、演奏会プログラムを研究した本です。どんな名曲も作られた時点では新作。それがどういうふうに演奏し続けられたのか、また再発見されたのか。ヨーロッパ各都市の文化そして観客の層の変化、どこをとっても興味深いです。そして今の時代にはもう演奏されることはないけれども、当時流行っていた曲というのは非常に数多く。

出てくる曲の編成としては、室内楽、オーケストラそしてオペラ。それらで使われる楽器群。やはり、リュート、ギター系の撥弦楽器については全く出てきません。傍流なのでしょうか、少しさびしいですが。最近僕は古楽器と呼ばれる特にルネサンス、バロックから19cの撥弦楽器を、聴いたり調べたり弾こうと試みたりすることが多く、そういった楽器の大きく西洋音楽全体から見た立ち位置にとても興味があります。



ピアノ・テクニックの科学


近年、アレクサンダーテクニークやそれに含まれるボディマッピングなど、楽器を弾くという運動を分析する文化が広まってきている。それにしてもこの本は特に素晴らしい。著者が独自に築いた理論体系なのだけれど、スポーツ医学、解剖学などをピアノに応用したそのやり方自体がとてもスマートで、様々あるこういった奏法本のなかでも白眉です。この本も、ピアノをやっていた高校生の時に出会いたかった。

具体的には小指のフォームが参考になりました。こういった使い方を考えたこともなかったです。



音楽の文章術


英語の論文等を書くときには必ず参照する"正式な書き方"の本があります。例えば米語だと「シカゴマニュアル」など。書くときの文体や表記法が厳密に定められていて、参考にするためのガイドブック(スタイル・マニュアル)です。この本は特に音楽という専門分野でのガイドブックです。

これは書くときだけではなく、読むときにもとても参考になるものです。例えば参考文献や人物名、作品番号などのルールは知っていて損はないです。調べ物をするときの、参考文献やネットでのデータベースなどなどとても役立ちます。基本的に西洋音楽の情報は、日本語で得られるものに比べて、現地の言葉であれば遥かに膨大です、特に現在英語は。ネットで簡単にアクセスできますし、何かを知ろうと思えば必須だと思います。

学生時代(留学時)に、レポートや論文提出というのが良くありました。書式(ページレイアウト、フォントの種類や大きさ、行間隔)という基礎の基礎も全くわからず、提出していた自分の無知に閉口します。今回取り上げた本たちは今役に立つというより、自分の若いころのある時点で必要していたものがとても多い気がします。しかし知るのが遅すぎるというのはないと思いたいので、今からでも学び続けます。



A Theory of Harmony Ernst Levy


昨年、Jacob Collierが取り上げて話題となった「Negative Harmony」。Steve Colemanには馴染んでいたので概念自体は知っていたのですが、この機会に僕も少し勉強。

Jazz Guitar Duoを一緒に組んでいる田中裕一氏が、Negative Harmonyのセミナーをひらいた時に少し協力させてもらいました。と言っても、何か出来たわけでもなく、Negative Harmonyに近い作り方をするMirror Harmonyについていくつか提示させてもらったくらい。

その後このムックにて田中裕一氏のNegative Harmonyの記事が展開されており、とても基本的な所が分かりやすいとおもいます。また今年はNegative Harmony関連の著書も出版されるとのこと。

個人的にはやり方使い方が分かって、ではNegative Harmonyを利用するかどうか?といえばNO。これはただ完全な好みです。Mirror Harmonyに関しては結構長めの曲を書いたりするときは前々から使っています。ギターリストだとMiles Okazaki氏もよく作品で使っていると思います。

使わないとはいえ、普段音楽理論も教える立場、知る必要があるのはその由来、使われてきた歴史や作品分析 etc… 使い方というのは音楽理論ではなく、四則演算と同じくただのツールです。ということでまずは出典の本からと。それにしても難解です(当然英語だし)。まだこの本について細かく解説できるほどではありませんが、時間があるときに少しずつやっています。



習得への情熱


ここからは直接音楽とは関係ないかもしれません。でのこの本は何かを習得するときの道筋について多くのことが学べます。チェスと武術、異なる2つのことをマスター(文字通り)するプロセスの中で結びついた共通点。全く異なる2つのことを極めるということ自体珍しいことですが、その本人の内観を文章で読むことが出来るというのはとても貴重な体験です。

僕のフェイバリットギターリスト、Ben Monder氏はよくチェスをやっているようです。あまりSNSはしないタイプのようですが、時折り面白い姿をTheo Bleckmann氏のSNSで見ることができます。



Antifragile


僕の人生の指針の1つとも言える「ブラックスワン」の作者タレブ氏の新作です。いつも同じことしか言っていませんが、それがとても大切。この人の箴言にような文体も長く読むうちに馴染んできました。あれからリーマン・ショックや311を経ての彼の提言です。是非どれか一冊でも彼の作品を読んでみてください。



岡田英弘著作集(全8巻)


惜しくも昨年亡くなられた岡田英弘先生の著作集です。生前に著作集をという異例の出版でしたが全て出版されたのを見届けられたようです。

歴史家として今の時代賛否両論ありますが、彼しか書けない専門分野が多くできれば全著作を読んで欲しいが、まずは1家に著作集(全8巻)。完読しましたが圧巻です。

専門が満洲史というか清朝、そしてモンゴル。僕が特に好きで面白いのはそういった専門分野の言語に精通されているということからの、中国語や日本語の推察、そしてそこから導き出される古代の姿。彼の著作を読んで、言語というものが本当に好きになりました。


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